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第3回学習講演会講演要旨
「持続可能な千葉県に向けて」
日本総合研究所 主席研究員 藻谷浩介

2021年11月17日(水)

私は、1983年から1992年まで9年間、浦安で暮らした。浦安は、千葉の産品が手に入りやすく、遊びに行くにも、千葉方面に行くことが多くなり、改めて思ったのが、千葉はとても豊かな所だということだ。浦安を出てから大分時間が経ったが、その当時を思い起こしながら、千葉の皆さんに参考になるお話をしたい。

千葉は豊かでいいところ

千葉の人は「千葉は豊かで、いい所だ」と、内心思っているのに、言わない。何かあっても、「いや、しょうがない。千葉だから」というような言い方をしたがるが、そこに大きな問題がある。

私は、地理オタクなので、平成の合併前ベースで全国の市町村を、すべて自腹で訪れていて、何度も行っている所がほとんどだ。千葉県では、昔、三芳村に行くのにわざわざ自転車を使ったり、車で行ったりして、大変に細かく見ている。

「誤知の知」というのを考えた。「誤知の知」とは、間違ったことを暗記してしまうことだ。「千葉県というのはこういう所だ」と皆さんが思っていることも、「誤知の知」かもしれない。

例えば、成田空港といえば、「不便でしょうがない。あんなものは、いらない。羽田空港が国際化したから、いらなくなる」というようなことを、昔に言った人がいるのではないか。現実には、どんどん拡張されていくわけで、すごくニーズがあるからだ。 ほとんどの県には、成田空港のような空港はないので、自分の県にあったらどれぐらい活用できるかと考えている。しかし、当の千葉県の人だけがあまり関心がないように見える。

コロナの感染状況から見えるもの

さて、コロナ禍について最新の数字を紹介する。なぜコロナ禍のことをお話しするかというと、千葉県の非常に大きな資源である成田空港がどうなるのかは、コロナ禍の動向に大きく左右されるからだ。

図表1に最新の1週間の、毎日の感染者数の平均を人口100万人当たりで示した。インドは8人だが、インドには14億人いるから、新規感染者は8人の1,400倍で、1日2,000人ぐらいだ。ニュージーランドは31人で、インドの4倍。韓国が43人、オーストラリア55人で、ンドより大分多い。世界的に見ると非常におさまっている。

<図表1>人口100万人当たりの新規陽性判明者数

イスラエルが107人で、なかなか感染自体はおさまらない。アメリカは221人で、インドの20倍以上感染している。EUは323人で、もっと多い。シンガポールは480人で、なかなかすごい感染状況だ。イギリスは502人で、もっとひどい。シンガポールは、日本の最悪のときの3倍、イギリスは3倍以上、アメリカも日本の最悪のときより全然大きいです。しかし、これらの国は、平然と経済活動をしている。

では、日本は今、人口100万人あたりの感染者数は1.5人だ。もうすさまじい勢いでおさまっている。本当はこの秋、今コロナがおさまっているのでせいぜい経済活動をして、年末にかけて必ずふえてくるので、また自粛するというほうが正しい。しかし、恐らく秋もじっとおとなしくして、何か大丈夫そうだと言って年末に騒いで、感染する人がふえるではないかと、非常に嫌な予感がする。

世界から見ると、こんなに感染抑えているのに、どうしてそんなに混乱しているのかという話になる。2021年6月から10月までのデルタ株が非常にはやった時期をみると、アメリカはワクチンをみんな打っていたはずなのに、3人に1人の割合で、ワクチンはフェイクだと言って打たない人がいることもあって、よくない。それに対して日本は、下位にいる。ちなみにインドはもっとおさまっている。

そして、亡くなった人は世界平均の4分の1ぐらいしかいない。なぜかというと、ワクチンを60歳以上の人に先に接種したからだ。これも自治体職員が大変な目にあわれた。国からワクチンを打てと言われて準備したら、今度はワクチンがないと右往左往した。しかもそれに対する国民の感謝があまりにもなさ過ぎるが、現実にはワクチンを打ったことにより、明らかに死者が減った。

このワクチンは感染自体をそんなに防がないから、今後もまた感染が増えることは十分あり得るが、接種していると劇的に重症化しない。死亡率が2%あったのが、0.2%ぐらいに下がっている。

千葉県は世界最大都市東京に組み込まれる

千葉県は、日本で2番目か3番目に農業生産力を有し、工業でも日本の5本の指に入る。千葉県のように工業と農業がどちらも日本トップクラスで、かつ世界最大の大都市東京に隣接しているという立地条件は、どこにもない。さらに、今はコロナ禍であまり稼働していないが、乗降客数では世界のトップテンに入る巨大空港・成田がある。

今、世界の国は二つに割れている。患者はふえているが、欧米のように経済活動を再活性化しているところがあるが、これはワクチン接種によって亡くなる人が少ないからだ。 コロナで亡くなる人よりもがんや脳卒中で亡くなる人のほうが何十倍も多いわけで、コロナばかり気にしても仕方がないので、普通に社会を回して、逆に「病気で亡くなる人の面倒を見られるぐらい、経済を回さないとまずいだろう」という考えになっている。

反対に、経済活動を再活性化できない国もある。筆頭が中国だ。中国は鮮やかに感染を抑えたわけで、毎日、どの省でどれだけ感染したかということを細かく出して、そのたびに行動規制を行って全部つぶしている。中国製のワクチンは効きが弱い。外国旅行にでかけて、ウイルスを持ち帰られると困るので、オリンピックはやるが、海外旅行は解禁しない。だから、成田空港に中国の方があふれるのは、もう少し先になる。台湾、オーストラリア、ニュージーランドも同様で、うまく抑えてきたので免疫ができていなくて、うっかり国を開くと危ない。

日本は世界有数の安全な国

日本は、世界有数の安全な国だ。正直言って国の機関があまり機能しているわけではなく、ただ何となく、みんながキチンと用心をすると、おさまるという状況だ。

第6波がくるが、ワクチンを打っているので死亡率が低い。3ショット目も摂取するとどうなるか。まずは欧米との交流再開になる。アジアは先ほど言ったように開国できないので、欧米の人たちが来る。事実、日本人はもう、欧米には普通に入れる。

いよいよ年が明けて、第6波が少し収まってくる1月・2月頃から、欧米との交流が活性化してくると私は思っている。この11月、既に国内のお客はかなり戻っているが、インバウンドも同じように戻ってくる。

インバウンド復活と千葉県

集客交流ができ、すばらしい食材を生んでいる千葉県の価値は、全然変わらない。むしろ、もっと大きくなる。これをキチンと理解した上で、今後の10年を考えてほしい。成田空港や貿易港を持っている千葉というのは、従来以上に重要になる。今、アジアや欧米の国々では、日本に行きたいのに行けないという、「日本ロス」が非常に高まっている。日本は安全だとみんな知っているので、早く行きたいが、入れてくれないということだ。

もう1回インバウンドが復活するが、それをキチンとチャンスに捉えていかなければいけない。今まで成田というのは通過するだけで、経済価値を生んでいない。それを今度は、価値が生まれるように努力をしなくてはいけない。

最大の問題は少子化

千葉県の持続可能性にはいろいろな問題がある。エネルギーや産業の問題もあるが、圧倒的に最大の問題は少子化だ。

持続可能性といえば「SDGs」だが、どこにも少子化が問題だと書いてない。強いて言うと「住み続けられるまちづくり」というのがそれにあたるが、どこにも「子供が減って困る」と書いてない。何で「SDGs」に書いていないのかというと、世界共通の問題ではないからだ。世界はまだ子供がふえて困っているところが圧倒的に多い。

しかし、日本の問題は少子化だ。日本は、毎年亡くなる人がふえている国だ。90年前に生まれた人が毎年ふえたため、その結果、90年後に亡くなる人が毎年ふえる。今は、亡くなる人はまだ130万人ほどだが、15年後ぐらいには最終的に団塊の世代が1年で200万人亡くなる。

人口減少時代に突入

今から45年前、「団塊ジュニア」が生まれたころの日本には、0歳から4歳の子が1,000万人いた。コロナ禍の始まる直前の2020年の正月には、0歳から4歳の子は478万人で、半分以下となった。日本は、本格的な人口減少時代に45年前から突入している。生まれている子供が減って、半分以下になってしまった以上、日本の大きさが半分になるのはもう既に起きたことなのだ。

何で医療崩壊するのか? 最初は人工呼吸器がない、防護服がないとか言っていた。最大の理由は、今はコロナ病床をふやしたいけど、働く看護師と医者が人手不足でいないのでふやせないことだ。医者は、高齢者の面倒を見ている人がものすごく多い。

70歳以上の高齢者は、45年前は542万人だった。2020年の正月には、70歳以上の高齢者は2,697万人で、5倍となっている。たった45年間で、病気になりやすい人が5倍にふえ、医者と看護師は、高齢者にかかりきりで、そう簡単にコロナ患者に回せなくなっている。

千葉も例外なく人口減少に

2015年の元旦と2020年の元旦の5年間で、千葉市に住んでいる15歳から44歳の人はどうなったか? 千葉市の人口は、1万人ふえている。15歳から44歳の若者が、1.2万人の転入超過だった。千葉市は、若い人が流れ込んできて人口がふえている。さて、そういう若い人が流れこんで人口のふえた千葉市で、15歳から44歳が何人動いたか? 千葉市内に住んでいる若い人は、5年間で3万人減ってしまった。

千葉は人口がふえているが、ふえているのは若者ではなく、主に70歳以上の高齢者だ。人口が1万人ふえている千葉市で、70歳以上だけ取り出すと3万5,000人、22パーセント増となっている。

15歳で入学して、45歳で卒業する、30年間在籍する「千葉若者学校」があるとすると、15歳で入ってきた子が4万5,000人。そして、よそから転校して入ってきたのが1万2,000人。あわせて、生徒が5万7,000人ふえるかと言えば、卒業生がいる。8万8,000人も卒業しているので、結局、千葉若者学校の生徒は、2万9,000人も減る。学校であれば教室が余る。実際の社会では家が余る。学校であれば授業料収入が減る。実際の社会では物が売れず、いろんな問題が起きる。

これが「少子化」だ。日本の持続可能性の最大の問題は、「少子化」だ。人口が減ると何が起きるかというと、人手が足りない、客が足りない、納税者が足りない、何かあったときに元気に働ける人が少ない、となる。日本では、子供が産まれていないということに対して、何の有効な対策も打っていない。そもそも政策の中で、プライオリティが低かったから、こういうことになっている。

東京に住んでいる人は、この5年間で、外国人も含めて54万人ふえた。千葉市と同じで、15歳から44歳の転入者が59万人増加した。田舎から集まってくる若い人のほうがずっと多かった。これはコロナ禍の前の話だ。

「東京の若い人が増えた」は幻想

コロナ禍の前に、東京に住んでいる若い人は8万人減っている。理由は、「少子化」だ。「東京若者学校」は、新入生・転校生より卒業生のほうが多く、生徒が減っている。実際、東京は空き家率が13パーセント、9軒に1軒が空き家だ。そこにマンションをふやしまくるので、ますます空き家が増える。何でこんなことになるのかというと、45年前に生まれた人が118万人住んでいるときに、そのちょうど30年若い世代である15年前に生まれた人が51万人と、半分以下しかいない。

実際に起きていることは、過疎地ではもう高齢者は減りはじめている。千葉県に関していうと、大多喜がほとんどふえていない。まだ鋸南とか鴨川は、若干ふえている。銚子も少しふえているが、やがて減りだす。先に高齢者がふえ終わったところから、減りだす。皆さんの中には、「過疎・高齢化して滅びるのではないか」、「千葉から西と東で格差がある」と思っている人がいるが、実際は違う。千葉から西は、八街・成田も含めて、高齢者だけ激増している。逆に田舎では、もう高齢者はふえなくなってきている。

なぜ高齢者はふえないのか? 70歳を超えた人と75歳を超えて帰ってきた人を合わせても、亡くなる人のほうが多いからだ。そうなると何が起きるかというと、医療福祉の負担が実額で減り始める。先進的な自治体では、負担減で生じた財源を子育て支援にどんどん回している。すると、子供が減らなくなってくる。

都会こそ人口減少が進む

20世紀―昭和の時代は、高齢者は田舎でふえて、都会は若いと思っていた。田舎ではもう高齢者は減り出し、皆さんが若いと思っている都会で、高齢者は激増している。医療崩壊は、田舎では起こらない。日本で医療崩壊しているのは、都会だ。これからはむしろ、先に高齢化した田舎でキチンと食料生産をして、エネルギーもある程度、自然エネルギーに切りかえていったほうが長持ちする。

半世紀後には、都会でも高齢者が減りだす。その先まで考えて、どういう社会にするのかということを考えなければいけない。大量に空き家が生まれている。空いた土地に、市民農園や自然エネルギーを使う様々な施設など、都市がこれまで見逃していたものを再建するチャンスだ。お手本は、先に高齢化した田舎にある。

国連の人口予測をよく見ると、日本だけが「高齢者が減り始める」となっている。そして、日本だけが、先に若い人が減り止まりそうな予測になっている。高齢者が減り出すと、逆に若い人が埋め合せのようにふえる可能性が出てきて、大きな循環の中に、私たちは生きている。事実としては、日本は高齢化に対処していける。必ずその方向に進んでいく。

21世紀は、寿命が延び、大企業の退職金で死ぬまで暮らせる時代ではなくなった。ぜひ皆さんには、退職のない仕事、たとえば農業等で暮らしていくことを考えてもらいたい。日曜農業があって、田畑を耕して食料の一部を自給できて、お金がなくても最悪死なない。井戸もあり、助け合いもある。仲間もいる。そういう人のほうが有利だ。企業は、一生面倒を見てくれない。企業でばりばり働いた人が、逆にきちんと別の人間関係にスイッチしていけるような、そういう社会づくりが必要だ。そうしないと、高齢者がどんどんふえてしまい、千葉県の、特に東京寄りの地域は大変なことになってしまう。

ところで、日本は極めて豊かで、仕事は死ぬほどある。人手不足だから、若い人はどんどん減るのに、失業率は全く高くなっていない。そうなってくると、いろいろなものが自給できて、観光客相手に小銭が稼げる千葉県は、ものすごく有利になる。一番不利なのが、東京都港区だ。何もつくれず、税金だけ取られる。

千葉県も出生率が低いが、もっと低いのが北海道や東京だ。高いのは、島根や鳥取が高い。島根、鳥取の特徴は、若い女性が働いていることだ。島根県の25歳から39歳の女性の就労率は、82パーセントで、鳥取県も80パーセントを超えている。千葉は69パーセントと、だいぶ低い。島根県や鳥取県では、若い女性が働きやすい。保育所完備で、待機児童はいない。

都会特有の問題として、「女の人が働くから子供が減る」と思い込んでいる人が多い。それは大きな間違いで、日本全体では、女性が働いているほうが子供の出生率が高い。やはり収入がなければ子供を産まない。共働きで、子どもを預けられて、育児の負担を女性に押しつけないことだ。出生率は東京が一番低いが、千葉も同じく低く、お隣の茨城県は少し良くなって、福島県はもう少しよくなる。田舎に行くほど、よくなっていく。ぜひ千葉の中で、女性が働きやすく、その結果として収入もあり、子どもを預けることもできて、もう1人産もうかという人がふえる状況を早くつくらなければいけない。皆さん、これが千葉県の持続可能性において、極めて重要な課題だ。

エネルギーはどうなる

アメリカ・中国・中東・ドイツ・イタリア・スイスの中で、日本が赤字の相手はどこか? 図表2のとおり、日本はアメリカから10兆円黒字で、その次に、中国から5兆円の黒字だ。この二つが日本のお得意さんで、ツートップだ。

<図表2>相手国別の日本の経常収支

最近の国際情勢は、日本の2大顧客のアメリカと中国がけんかしているという状態だ。どちらかを選べと言われても、そう簡単ではない。第一、どちらかを切ると、中東に莫大なガス代・油代を払うお金が稼げなくなる。

ほかの国との関係では、経常収支の黒字幅が3兆円までと、赤字幅が2兆円までの相手国をみると、アメリカと中国以外に、日本は台湾、韓国、シンガポールやインドから大もうけとなっている。ヨーロッパでは、ドイツからもうけ、それ以上にイギリスとオランダから大もうけだ。ケイマン諸島からはだれかがお金を預けて、オフショア市場で荒稼ぎした金利が、日本に3兆円ぐらい流れ込でいる。

そのもうけたお金で、中東の石油と天然ガスを買っている。ロシアの天然ガス、オーストラリアの石炭と鉄鉱石、ベトナム、フィリピン、マレーシア、インドネシア、タイの天然ガスを買う。南アフリカから、その他の鉱物資源を買う。とにかく日本の経常収支の赤字部分は、油代・資源代と、イタリアにパスタ、オリーブオイル代、スイスに時計代だ。

本来、日本もイタリアのように、高品質のイタリアに勝てる商品、チーズ、オリーブオイル、パスタ等を生産して──いや、お米でも、すしでもいいのだが──外貨を獲得できるはずだ。そして、もう少し省エネ・新エネをキチンとやれば、エネルギー代が削減できるはずなのだが、これがあまい。

あまい証拠に、「日本のかたきは中国で、そこをたたけば何とかなる」と、およそ中東から見たら「しめしめ」というような、勘違いをしている人がたくさんいる。「お金を持っていったのは中東だ」ということに、だれも気がついていない。第一、中国が日本からお金を稼いだら、日本にお金を使いに来たり、日本製品を買ったりする。中東の人は、ほとんど日本にお金を戻さないし、出たきりになる。そのことに対して、だれも問題だと思っていないことが、日本の大きな問題だ。

千葉県はエネルギーの宝庫

千葉県は、風力、波力などの大きな自然エネルギー源があるが、あまり活用できていない。加えて、千葉県は、日本有数の農業産地だが、6次産業化が非常に遅れている。例えば、ピーナッツ一つとっても、「ゆでピーにして、袋に入れて、コンビニで売る」ということが全くできていない。コンビニには、ナッツがたくさん売られているのに、千葉県以外のコンビニでは、ほぼピーナッツは売られていない。圧倒的においしいのだが、千葉に行くと野積みになっていて、巨大な袋に詰めて、「さあ買え」と言っても、大き過ぎてだれも買わない。千葉県の農産品は、イタリア等に負けるはずのない、非常に豊かなものがあるのに、ほとんど高付加価値化されていない。

イタリアは、繊維やバックも強いが、千葉の手工芸品の伝統もある。成田で売れるし、圧倒的にイタリア等に対抗できる力を持っている県なのだが、そちらの方向に向かっていない。

エネルギーの輸入は省エネで減少

エネルギー輸入について、原発事故の前の2010年と、コロナ禍の前でたいへんバブっていた2019年を比べると、日本のエネルギー輸入は、どうなったのか? 2010年の日本の化石燃料輸入量は、4億4,500万トンでした。原発事故が起きたあと、天然ガス発電や石炭火力発電を再開したため、天然ガスや石炭の輸入が少しふえているが、その後、日本の化石燃料輸入は、減っている(図表3)。

<図表3>原発停止と化石燃料輸入量

2020年のコロナ禍で、もう少し減ったと思われるが、何でそんなに減ったのか? 一言で言うと、省エネの効果である。例えば、LEDへの切り替え、断熱改修するだけで、石油消費が減る。一部、太陽光等の再エネの普及もあるが、基本的には省エネだ。

日本が輸入する石油の多くが、車や家の冷暖房に使われる。車はハイブリッド化等によって燃費が格段に向上した。家やオフィスは新しく建てかわるときに、断熱性の高い素材に変えているので、劇的に油使用量・電気代が減り、この傾向はずっと続く。千葉の製油所や石油産業は、長期的な需要減少に直面している。淡々とこの状態に対応して、切りかえていかなければいけない。何に切りかえるのかといえば、やはり"餅は餅屋"で、エネルギー屋はエネルギーをやるべきだ。

その昔、日本のエネルギーは、薪と炭だった。家庭では、薪・炭は昭和40年代まで続いたが、やがてなくなった。全国に薪炭(しんたん)屋があったが、ほとんどがガソリンスタンドに衣替えした。地域のガソリンスタンドチェーンの多くが元・薪炭屋だ。 今後、「脱炭素」の流れの中で、ゆっくりゆっくりガソリン等の使用量が減っていく。かつて薪炭屋がガソリンスタンドに衣替えしたように、石油屋は──もちろん石油を扱うのだけれども──半分、自然エネルギー屋や、省エネコンサル設備屋にかわっていくということだ。太陽熱の有効利用や全体の省エネ化の診断をする等の方向に商売を広げている会社は多いはずだ。

どんなに「脱炭素化」と言っても、別に石油自体がなくなることはない。必要なものは必要だし、効率もいいので、要するに一定数以上にふえないように、抑制すればいいだけだ。ましてや、石炭と違って「使うな」ということではない。千葉の製油がなくなることはないが、より効率化を進めながら、もう一つの足として「省エネ・再エネ」に向けて動いていくことだ。

そもそも日本国内の必要性を考えても、中東にこんなに金を払っている場合ではないので、「省エネ・再エネ」にすでに動いていたということだ。価格も上がったり下がったりして、一々追及していたら大変なことになるので、なるべく輸入したくない。ここで大切なことの第一は、安さで勝負せずに、高品質のイタリアに勝てるような商品でお金を稼ぐことだ。第二に、稼いだお金を地域内でぐるぐる回す。第三に、新エネルギー・省エネ・新エネ投資・エネルギー代の大幅削減という方向に、長期的に向かう。エネルギー側は、それに対するいろんな新技術やコンサルをしていく方向に動いていく。

コンビナートは、もともと非常にエネルギー効率が高い。いろいろなものを中でぐるぐる回すことによって、すごく効率的な生産を行っている。あるコンビナート関係者は、「私たちは、既に里山のようなものです。人工里山です。循環再生していますよ」といっている。そのコンビナートの中における循環再生ノウハウを、町の中に応用する等、様々なやり方で日本中の省エネ・新エネをふやすという方向に、千葉がリードしてもらいたい。

千葉のエネルギー産業は多角化を進めてほしいし、「自分だけでも省エネをしよう、建てかえをしてみよう、再エネに取り組もう」という人が、もっとふえてもいいと思う。千葉のように土地が広くて、いろんな豊かな資源がある地域は、東京よりずっと有利だ。

インバウンドが千葉の伸びしろ

千葉県の大きな伸びしろは、国際観光、インバウンドだ。今後のことを考えるには、コロナ禍の前年に日本を訪れた客を見るとわかる。その際、「中国から1,000万人近く来た」という点に注目するのではなく、図表4のとおりその国の「何人に1人が日本に来たか」という数字を見ると、これからどうなるかが予測できる。

<図表4>何人に一人が日本に来たか

2019年の1年間に、アメリカ人の「187人に1人」が日本に来たが、多いのか少ないのか、よくわからない。1人の人が2回来ると、2人と数える。187人に1人は、パーセントで言うと0.5%で少ないと言ったら少ない。

日本に来た中国人は、「143人に1人」という計算になる。もともと中国人は数が多いので、物すごい数が来た。「143人に1人」は、アメリカ人よりも来ている頻度が高い。やはり近くだし、ビザが緩和されたので来やすくなった。コロナ禍の関係で、しばらく中国からは来ない。コロナ禍は大体2~3年でインフルエンザみたいになって、世界的に騒がなくなる。このあと、どうなるか?

参考になるのは、韓国・台湾・香港で、韓国の人は「9人に1人」が日本に来ている。日本にも韓流ファンは多いが、同じように韓国にも、日本が好きな人はすごく多い。そういう人が20人に1人いたとして、1年に2回来ればこれぐらいの数字になる。それにしても、桁が中国と二つ違う。台湾人は、「4.8人に1人」が来ている。これも、桁が二つ違う。香港の人は「3人に1人」が来ている。これは、日本人が1年間にディズニーランドに行く頻度より高い。

普通に考えて、韓国・台湾・香港からこんなに来ているのに、中国が百何十人に1人でとまるか? 中国人が台湾並みに来るとは思わないが、台湾の10分の1の「50人に1人」ぐらい来るのではないか。

アメリカ人も「187人に1人」だけれど、多分、同じ白人でもオーストラリア人は、「39人に1人」が来ている。日本からアメリカ西海岸へ行くのと、オーストラリアへ行く時間は同じ10時間程度だ。オーストラリアの人口は2,300万人。アメリカ西海岸だけで1億人住んでいる。アメリカが「187人に1人」で済むはずがない。

ベトナム人が「189人に1人」だが、タイ人並みに来たら、今の4倍近くになる。ドイツ人がまだ「300人に1人」しか来ていないが、イギリス並みに来るだけで2倍になる。インドネシア人が「600人に1人」しか来ていないが、インドネシアとマレーシアは、言語と文化がほとんど同じだ。インドネシア人がマレーシア人並みに来たら、10倍になる。 インド人は「7,453人に1人」しか来ていない。インド人が万が一、インドネシア並みに600人に1人来れば、今の10倍だ。

しかし、逆にこんなにふやしてはいけない。要するに、パンクしてしまう。そもそも2019年にパンクしていたから、これ以上ふやす必要は余りなのだが、放っておくと来る。なぜかというと、日本は庭で、きれいな公園なのだ。治安のいい、きれいな公園で、おいしいカフェもあり、四季折々に景色が変わる。

皆さんも近くにきれいな公園があって、花壇や森があって、川があったら、散歩に行くのではないか。まさに数時間先に、自分の国にはない非常にきれいな自然と、おもしろい街があるわけだ。そこにおいしいレストランやカフェがあれば、行きたくなる。だから、必ず復活する。コロナ禍でずっとみんな閉じ込められていたわけで、例えば、シンガポールの人はずっと熱帯にいるので、冬を経験したいわけだ。早く日本の冬に行って、おいしい鍋をつつきたいとか思っている人が多くいる。

ただし、10年に1回程度、コロナ禍や大地震等が起きて、客が来なくなる。そこを生き延びられる事業者しか残れない。10年に1回売り上げがなくなるような業界で、生き残る方法は一つしかない。もうかるときに、キャッシュを貯めておく以外にない。

「大量に安く」ではなく、少量を高単価で

客がたくさんやって来たら、日銭が入るので、つい深く考えずに回す。ふと気がつくと、貯金がない。そういうやり方をしていると、つぶれる。客をふやさなくていいので、1円でも高い値段で回すということが極めて重要になる。「大量に安く」ではなくて、「少量を高単価で」なのだ。

また、ピーナッツの話に戻れば、大きな袋詰めのおいしいピーナッツを売るのではなくて、ゆでて、それこそ20個1パックの小さいパックでコンビニに並べるということを、キチンとやるべきだ。そのほうがもうかるし、客も喜ぶ。客数はふやさなくていいので、1円でもいいから高くする。客は自動的にふえる。

成田空港を拡張しても、全然間に合わない。皆さんは、千葉を素通りして東京に行ってしまって、地元に1円も落とさない客を、どのように逆方向にキチンと回すのかということを、まじめに考えるべきだ。 そもそも成田空港からわずか30分で行けるところに、世界有数のゴージャスな砂浜・九十九里浜があって、そこで東京オリンピックのサーフィン競技が行われていたことを、インバウンドの人はだれも知らない。欧米人は、正直言って大都市よりも浜辺のほうが好きだ。しかし、九十九里浜に行ってみると、おしゃれなカフェもなければ、ビールが飲めるファシリティも全くない。フランスのニースやカリフォルニアの海岸だったら、普通にあるようなものが、何一つない。

寂れた、茫々とした海が、ただ広がっている。日本人は、その価値をわかっていない。正確に言うと、千葉県人がわかっていない。でも、成田空港に来た客の10人に1人でも、反対方向の九十九里浜や勝浦に行くほうが、はるかに魅力的だということがわかるだけで、千葉の構造は劇的に変る。

何で今まで、千葉でそういうことをやらなかったのか? 一言で言うと、どんどん客数がふえるのに対応して、喜んで、手いっぱいだった。そこで県外から持ってきた土産物を売って、喜んでいた。そうではなく、イタリアに負けない、はるかにレベルの高い、日本有数の、つまり世界有数の農産物・水産物が地元にあるという、この「地の利」を成田空港と一緒に活かすだけで、まさに世界の地産地消の大中心になれる。そのポテンシャルが、今から開けると思ってほしい。

ただ、千葉について、元県民として長年つき合ってきた私が危惧しているのは、こういう話をもう30年ぐらい前からしてきているが、本当に動きが乏しい。きょう私は、佐賀から長崎空港経由で帰ってきたが、九州であれば、空港のつくり一つ取っても、「来た客を逃さないぞ」「1円でも多く地元の物を買わせるぞ」という仕組みが、きちんとできている。それに対して千葉では、カフェやレストランのつくり一つ取っても、パッケージのやり方一つ取っても、もう令和なのに、まだ昭和のやり方が残っている。

成田空港を軸に展開

皆さんが、もう少しよそに勉強に行かなくてはいけないと思う。成田空港があるから、コロナ禍が明けたらもう即刻、シンガポール・台湾等に行って、ライバルは何をしているのかを、本当に勉強してきたほうがいい。九州へも、ぜひ行ってほしい。成田空港から九州まで、1万円かかない。ディスカウント航空の日本最大の拠点だから、今、千葉県民ほど日本中に安いお金で行ける人はいない。

日本のどこでも、東京周辺よりはるかにレベルの高い観光振興を行っている。それをリアルタイムにキチンと見てきて、追いつかなくていけない。その先に、千葉の大きな未来が開ける。 どうも、きょうは長時間ありがとうございました。 (以上)

(この講演要旨は、事務局の責任で作成しました)

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