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第2回学習講演会Ⅱ部 講演要旨
「人口減少時代に求められる持続可能な地域戦略」
千葉商科大学 基盤教育機構 准教授 田中信一郎

2021年7月12日(月)

今の時代は、人口減少は避けられず、地域の発展も失っているが、それは必然ではなく、人口が減るのは避けられなくても、地域は引き続き発展していく。そのような地域をどのようにつくるのかということについて、話をさせていただく。

自然エネルギー100%の大学

現在、私が所属している千葉商科大学は、日本初の「自然エネルギー100%大学」として全国に知られるようになった。

民主党政権でFIT(固定価格買取制度)が成立した直後に、全国の多くの大学が太陽光発電をやろうと検討したそうだが、ほとんど実現しなかったということだ。ところが、本学の理事長は、もともとは日本経済新聞の論説委員で、経済やエネルギーを担当していた。自然エネルギーの活用は、将来の教育などに有益なはずということで、決断をして導入したと聞いている。現在、さまざまな省エネ設備や太陽光発電設備を充実させている。

人口増加の時代から減少の時代に

下図は、西暦800年の平安時代の始まりから現在、そして未来の2100年までの、日本全体の人口の推移だ。西暦800年の平安時代から鎌倉時代、室町時代と、緩やかに人口は増加していた。

<図>日本の歴史始まって以来の人口減少時代

そして戦国時代、安土桃山時代、江戸時代前期に、150年で、人口が3,000万人ぐらいまで増えた。江戸中期に"享保の改革"になると、当時の技術で開発できる食糧生産が限界に達して、そのあと横ばいになった。明治維新以後、文明開化、医療の改善、貿易が盛んになって、どんどん食料品が海外から入ってくることによって、人口が急激に増えていく。ピークは2008年で1億2,808万人だ。

その後、人口減少が日本全体で始まっていき、このままいけば2100年には4,000万人から3,000万人ぐらいまで、減ってしまうのではないかと言われている。人口減少というのは、日本の歴史始まって以来の出来事だ。

さて、これに対して国は、何とか出生率を回復させて、人口減少に歯止めをかけようとしている。出生率を回復させることによって2060年に1億人、2110年には9,000万人で、人口を安定化させたいというのが政府のベストシナリオだが、このベストシナリオであっても、急激な人口減少は避けられない。もう一つは、100年・150年・200年ぐらいの期間で見ていくと、日本の人口はV字回復せず、再び増加に転じることがないということだ。 人口減少は既定路線なのだ。ではどうするのか。

出生率の減少と結婚できない若者

講師の田中准教授の写真千葉県の地方創生総合戦略では、千葉県の2014年時点の合計特殊出生率は1.32だが、2030年には出生率1.8、2040年には2.07まで上昇すると仮定して将来人口を推計している。それによると、2015年で620万人の人口が2060年には518万人となり、約100万人減少すると予測している。これに加え、2015年(平成27年)以降、転出者のうち53.1%が、5年間で千葉県に戻ってくるケースも試算しているが、それでも2060年の人口が576万人となり、約44万人の減少としている。

まず、2030年に出生率が1.8となることを想定しているが、今、結婚したいと思っている若者のすべてが結婚し、その若者たちが欲しいと思っている子供の数がかなって、達成できる出生率が1.8だ。希望する若者の全部が結婚して、希望する若者の全部が希望する数の子供を持つにはどうすればいいか。

これに対して、国は一つの解決策を見出している。内閣府が予算を出して、全国の自治体に婚活パーティーや結婚相談事業を行ってもらっている。しかし、これで解決できるのか? 現在、徐々に結婚の率が下がっているが、結婚するつもりの人の割合は、男女ともに、昔も今もそれほど減っていない。

大事なことは、男女ともに、昔も今も正規雇用の人の結婚意欲は高く、非正規雇用の人の結婚意欲は低い。結婚意欲は、実は雇用にものすごく影響されている。

雇用の悪化が大きな原因

若者の所得動向をみると、97年から2010年にかけて若者は貧しくなっており、非正規雇用が増えている。これらを総合的に見ていくと、非正規雇用は交際だけではなく、そもそも友人関係・人間関係が"タコ壺化"しやすい。これが孤独や孤立と言われる問題の一つだ。非正規雇用は、このような問題をそもそも雇用形態として抱えやすい。実際、非正規で低所得の若者が増えているから、結婚が減っている本当の原因は、雇用環境だ。

内閣府が「妻の年齢別にみた、理想の子供の数を持たない理由」を調査している。例えば、子供が1人いる妻に対して、「3人ほしいと言っていましたが、なぜ2人目・3人目を生まないのですか?」と聞いたときの回答をみると、34歳未満の1位は、「子育て・教育に、お金がかかるから」だ。2位は「自分の仕事に差し支えるから」、3位は「家が狭いから」、4位は「これ以上、育児の心理的・肉体的負担に耐えられないから」、5位が「夫の家事・育児への協力が得られないから」だ。若者の所得・働き方・社会環境が主たる阻害要因だとわかる。

先ほどの雇用環境と、この社会的な出産の阻害要因が、全部解決したときの出生率が1.83だが、残念だがこれでも人口は今後も減り続ける。

非常に大ざっぱな数字だが、少子化白書にあるデータをみると、日本の子育て・子供の教育にかかる費用は、現在、総額約50兆円だ。そのうち20兆円が公費で、30兆円が私費。子育て・子供の教育にかかる費用をGDP比でみていくと、日本は大体、フランス・スウェーデン・イギリスの2分の1から3分の1だ。出生率を2程度に引き上げるということは、残り30兆円の私費負担の部分も全部、国もしくは自治体が負担するということを意味している。

地方から都市への人口移動

さらに、都市と地方の人口移動という問題がある。1950年から現在までの、東京圏・大阪圏・名古屋圏の三大都市圏と、それ以外の都市圏の人口の流出入をみると、大都市に一番流入し、地方から一番流出しているのは、1964年の東京オリンピックの2年前だ。1962年が一番の景気のピークで、そのときが人口流出入もピークだった。

この人口の流出入は、1970年代のオイルショックに伴う不景気で急激にとまった。また、1980年代後半のバブル経済のときに、地方から人口が流出し、大都市に流入したが、バブルの破裂でこれが止まった。その後、アメリカの好景気で流出入が広がっていき、リーマンショックで流出入が縮まる、というように繰り返している。好景気になると、地方から大都市に人が流入し、不景気なるとそれが止まる。

農山村・中山間地域が衰退するというのは、日本という国にとって、決していいことではない。では、どうするのかというと、産業構造の改善・転換が必要だ。地方が活性化するように経済の産業構造を変えないと、今のままでは都市と地方が対立する。これは何としても避けなければいけないと思っている。

国レベルでも地方レベルでも、人口はV字回復せず、ベストシナリオでも、日本全体の人口減少は2070年ごろまで続く。この苦い現実を、この千葉県全体の地域戦略の出発点にする必要があるということが、私の最初の提案だ。

人口減少で地域経済も縮小

人口減少が地域に及ぼす影響についてお話しする。

一つ目は、人口減少に伴う影響としては、地域経済が縮小する。なぜならば、国内の多くの地域は、内需頼みだ。国全体で見ても、外需――外国に輸出することで潤っている経済――は15パーセントで、残りは国内経済だ。人口減少が避けられないという前提を踏まえれば、1人当たり、あるいは1世帯当たりの使う金額・所得が同じであれば、確実に地域経済は縮小する。

これを避けるには、1人当たりの所得を高める必要がある。賃金とか経済力を高めなければ、当然消費力が落ちていくから、地域経済が縮小していく。

二つ目は、人口密度が低下していく。千葉県内でもそうだが、多くの地域は、江戸時代ぐらいからある中心部があって、人口が増えるにしたがって、その周辺に人口が拡大してきた。では、人口が減少するときはどうなるか? 隣が空き家、向いが空き店舗という形で、虫食い状態で減っていく。

例えば、人口が10万人から20万人に広がった街は、当然20万人が住む街の大きさで、水道管、電線、ガス管等のいろいろなインフラが整備されている。しかし、1度広がった街の人口が半分に減少したら、その20万人分の水道管、電線、ガス管等のインフラを、10万人で維持するという話になるわけだ。それで持ちこたえられるのか、という問題が出てくる。

人口密度が低下すると、大きく分けて五つの地域課題が発生する。

第一に、空き家・空き建物が増加する。

第二に、商業施設やサービス産業、病院が撤退していく。これらは半径10㎞などの商圏を設定して、その商圏の中の人口で進出してきている。当然、その商圏の人口が基準以下になったら撤退する。

第三に、買い物困難者、生活困難者が増加する。採算を上げるためには商圏を広げなければいけないから、歩いて行ける距離のスーパー等の施設はどんどんなくなっていく。

第四に、訪問宅配サービスが撤退していく。例えば、訪問看護・介護のサービスの場合、今まで車で回って、1日10軒回れていたとする。人口密度が低下すると、これが同じ距離を走って6件ぐらいしか回れなくなる。これで事業の運営が成り立つかということだ。

第五には、公共交通も維持費が増大していく。

老朽インフラが課題に

さて、人口減少で地域がどうなるのかという三つ目の問題は、老朽インフラに悩まされることだ。本当は、人口減少と老朽インフラは関係ない。市区町村が保有する公共施設は、1970年代にたくさん増えており、インフラそのものが老朽化していく時期と、人口減少の時期がたまたま重なるというダブルインパクトとなっている。

四つ目が、人口が減少するのに、医療費・介護費の負担は増え続ける。長野県内の市町村の1人当たりの医療費も右肩上がりで増加している。長野県は全国でも屈指の、1人当たり医療費の小さい県だが、ほぼ全ての都道府県はこれ以上だということだ。

人口増加を前提とした経済政策は破綻

五つ目。人口減少の時代は、人口増加期に成長で解決できていた課題が顕在化して見えてくる。人口増加の時代には、経済成長して税収も毎年増え、国からの交付金も毎年増えるから、新たな問題が出てきたとしても、増えた税収や交付金でそれを解決の原資に当てていたが、それができなくなる。

同時に、人口増加を前提とした社会システムと現実の乖離が起きる。自治体では、税収や職員等の行政資源が減少していく中で、増加していく課題を解決しなければならない。このことは、自治体で求められる公務員像が180度変わったことを意味する。右肩上がりの時代は、中央集権であったこともあり、国が政策の大枠を決めていた。地方公務員は、国の指示どおりに、政策を地域で微調整することを行っていたが、それでは問題は解決していかない。

今、一番問題が起きているのは現場だ。問題を察知している現場の職員、議員あるいは場合によっては問題を抱えている当事者も含めて、ネットワークをつくって、みんなで資源を持ち合って、知恵を出し合って解決するしかない。 先ほど、財政や職員等の行政資源が有限だとお話したが、これからは無限の資源を生かしていくしかない。一つは知恵、学習だ。様々な形で職員も地域の住民も含めて勉強して、前例のない時代に立ち向かうしかない。

もう一つは、ネットワーク、人脈だ。縦のネットワークというよりも、横のネットワークだ。NPO、労働組合、行政職員、議員、当事者等が横のネットワークをつくって、違う持ち場で課題を一緒に解決するために、みんなで知恵と資源を持ち寄るしかない。この無限の行政資源をどれだけ生かせるかが重要だ。

千葉大学の倉坂教授が開発した「未来カルテ2050」は、基礎自治体レベルで、人口減少に伴う地域課題解決と、脱炭素戦略を同時に考えられるように研究支援を行うプログラムだ。全国の各市町村が、2050年にどうなるのかという、様々なデータがみられるので、ぜひ一度、ご覧いただきたい。

働き手と消費者が減少するため、生産性と域際収支の改善がなければ、地域経済は必ず縮小していく。そして、人口は虫食い状態で減少していくために、都市エリアの縮小と人口密度の維持がなければ、インフラコストも必ず増大する。だから、自治体、地域の企業、住民、もちろん労働組合や議員の皆さんで話し合って、この地域・街の在り方をどうするのかいうことを議論しなければいけない段階にきている。

気候変動、環境、エネルギー対策が突破口に

ここで突破口になるのが、気候変動対策、環境政策、エネルギー政策で、ポイントが三つある。

一つ目は、地域経済を活性化するために、地域主導型の自然エネルギー事業が重要になる。

二つ目は、地域の健康寿命を延ばすために、新築住宅の断熱化、既存住宅の断熱化改修を促進すること。三つ目は、人口減少に適合した街にするために、自動車に過度な依存をしない都市構造に転換することだ。

長野県のSDGs計画は、総合計画から特にSDGsに関連したものをピックアップして策定している。その計画の2番目に、「地域内経済循環の促進」を掲げ、再生可能エネルギーを促進するとしている。3番目に、「快適な健康長寿のまち・むらづくり」として、自家用車に頼らない地域づくり、省エネ建築による断熱性能向上を進めていくという計画で、国から認定を受けている。長野県は、すでに4年ほど前から実施している。

まず、地域エネルギー政策で経済を活性化するというのは、どういうことなのか。今は域外から、たくさんの石油・石炭・天然ガスなどのエネルギーを買ってきている。電力会社やガス会社といったエネルギー会社も含めて、国外から買ってきて供給している。

例えば、少しずつ地域で省エネのリフォームをして、地元の工務店に断熱改修をやってもらうと、地元の工務店にお金が回る。あるいは地元の山からチップを買ってきて、熱供給すれば、地元の山を所有している人にお金がいく。千葉の中山間地域で、千葉や東京に電気をつくって売れば、そこにお金が入ってくる。このような循環を地域総ぐるみで行っていく必要がある。

それで、どれぐらいの経済効果があるのか。日本全体で輸入している石油・石炭・天然ガスの価格は、1998年が5.7兆円だったが、これが2014年には27.6兆円で、5倍にまで増えている。なぜ5倍になっているかといえば、国際価格が値上がりしただけだ。

ではエネルギー会社が、すなわち電力会社、ガス会社、石油会社等がもうかっているかといえば、もうかっていない。エネルギー会社が困るのは、値段が乱高下することだ。流失する化石エネルギー費用をどうするのかというのは、実は日本全体の大きな課題なのだ。

そのときに重要なことは、例えば自然エネルギーであれば、地域主導型で事業を進めるということだ。自然エネルギー事業の大きな特徴は、利益を生むが、あまり雇用を生まない。しかし、ポイントは利益を生むという点で、この利益の多くは事業所得だから、株主への配当、経営者への報酬、初期投資で融資した金融機関の利益になる。

例えば、地元のエネルギー会社や労働組合等がみんなで出資して、地域発電所や地域エネルギー会社をつくったとすると、それはその地域の会社、地域の人たちの収益になっていく。そして、その資金を地域の金融機関から借りれば、それは薄く広く、住民に利子として回るわけだ。

一方、これと逆の形態を外部主導型というが、例えば、アメリカの企業が日本で自然エネルギー事業を行い、融資をアメリカの金融機関から受けると、利益のほとんどがアメリカに行ってしまう。大事なポイントは、だれが事業を行うかです。千葉県内の企業とか、千葉県内の団体、千葉県内の人々が事業をやれば、これは千葉県内でお金が回る。別に地域でエネルギー会社とかと対立する話ではない。

そうは言ってもノウハウがなければ、なかなか簡単にはできない。良心的な自然エネルギー会社は、「共同型」というのを進めている。日本で多いのは、収益の一部をその地域の自治体に寄付するというものだ。PLUSSOCIALという龍谷大学の子会社があるが、これは和歌山等で共有地を借りて、メガソーラーを運営している。その収益の1%を、地域の町・自治体に寄付し、町はその収益で、福祉や市民活動を支援している。

実際、長野県では、2013年から地域の自然エネルギー事業を応援していこうという方針を立てて、官民が連携していろいろ取り組んでいる。長野県上田市の事例ですが、田んぼの上に市民出資でつくったソーラーシェアリングだ。二反の田んぼでつくった有機米の売却益が10万円だが、ソーラーシェアリングによる電気の売却は200万円なのだ。これは農家の人が運営していう。現金が入ってきますから、農業を続けられる。むしろ農業を続けないと、ソーラーシェアリングをできないことになっている。長野県では、「自然エネルギー信州ネット」という産・官・学・民連携のネットワークをつくって、市町村も企業もみんな入って、意見交換や情報共有をしている。

市民、中小企業、小さな町や村が自然エネルギー事業として、水力発電をやろうとすると、事業費が2億円かかる。仮に、自分たちで集めたお金が1,000万円だったとすると、残りの1億9,000万円を金融機関はなかなか貸してくれない。そこで、「県が最大9,000万円まで補助金を出すから、それで融資交渉をしてください」と言うと、大体通る。「売電FITという売電収益がありますから、それを15年かけて返してください」というように、信用を補助するという補助金もつくったりしている。

長野県企業局の電気を、世田谷区の46の保育園に供給している。これで長野県も収益を増やしたし、世田谷区も安い電気になる。保育園には、「この保育園は、長野県産の自然エネルギーで運営されています」というポスターが貼られている。保護者にとても評判がいいそうだ。

都市と農山村の両方抱えている千葉県では、地域の住民がつくった、顔の見える電気を、あるいは企業局の電気を、都市の保育園の電気として購入するというようなことが考えられる。そうすると、中山間地域にお金が行くことになる。

地域エネルギー政策で健康寿命を延ばす

二つ目は、地域エネルギー政策で健康寿命を延ばす、ということだ。

日本の4大死因の1位はがんだが、がんによる死亡には季節変動はみられない。2位は心疾患、いわゆる心筋梗塞だ。3位は肺炎。4位は脳血管疾患、いわゆる脳梗塞だ。これらの心疾患・脳血管疾患と肺炎による死亡は、日本全体共通で冬に多くて夏に少ない傾向を示している。ヒートショックが原因で、温度差で血管が詰まったりして、亡くなってしまうわけだ。

ところが47都道府県のうち、夏と冬の死亡率の差を見ると、その差が10%しか上がらない地域から、25%と冬に死亡率が跳ね上がる地域まで違いがある。冬の死亡率が日本で一番上がるのは栃木県で、25%上がる。一番上がらない県は北海道だ。

冬季死亡増加率の4位は愛媛県、6位は鹿児島県、7位は静岡県、10位は熊本県、11位は和歌山県だ。これらの県に共通する果物は暖かい地域でとれるミカンだ。千葉県も多いほうで、冬の死亡率が20%近くに上昇する。。つまりこれは、外の寒さの問題ではなく、家の中の温度差の問題だということだ。

さて、自治体議員の皆さんにとっては、もう一つ大きな問題が医療費だ。後期高齢者医療における1人当たりの医療費をみると、「循環器系疾患」にかかる医療費は、「がん、悪性新生物」にかかる医療費の3倍となっており、非常に高い。

さらに、要介護度別にみた介護が必要となった主な原因の構成割合をみると、要介護3・4・5では、介護が必要となった主な原因の1位は脳血管疾患だ。いわゆる脳梗塞で、「脳卒中」とも言う。要は、高齢者が増えることは避けられないが、循環器系疾患や溺死を減らすことはできるのではないか。

そのための政策は簡単で、地域の住民全員が、夏・冬に全館暖房・全館冷暖房にすればよい。何故やらないのかといえば、光熱費がかかるからだ。例えば、2,000万円の家と2,200万円の家があるとする。見た目は同じ、間取りも同じだが、Aは、あまり断熱していないから、全館暖房すると金がかかる。Bは断熱しているけれども、暖房すると金がかからないが、最初の建築費が大体1割ぐらい高い。だから、やらない。

では、こうしたらどうか。Aは価格2,000万円で、全館冷暖房すると年間光熱費が20万円だ。Bは価格2,200万円ですが、年間光熱費は10万円で済む。これなら、多くの人は、Bを選ぶのではないか。

実は、長野県では、2015年から条例を全面施行して、住宅、公共施設や商業施設も全部含めて、新築の建物を建てるときには、基本的にエネルギー性能を検討するということを施主に義務づけている。具体的には、長野県内の地場の工務店が標準の建物を建てる場合は、「長野市で一般住宅だと、1年間の光熱費は25万円かかります。国の省エネ基準に基づくと14万5,000円です。そしてこのホクシンハウスの標準グレードだと5万5,000円で済みます」ということを、建てる前の営業段階で教えてもらえる。

これによって、実際に売り上げを伸ばしている。また、改修などもサポートすることが大事なので、県で地域の工務店が簡易診断できるようなシステムを作成して、講習会でそのソフトを使ってもらったりしている。

少子高齢化のまちづくり

三つ目は、少子高齢化のまちづくりだ。高齢になって、ふだんの買い物や食事など生活することを考えた場合、どこへ行くにも車が必要な街よりも、大体な所へは歩いて行ける街の方が住みよいわけだ。そうは言っても、過密ではないことが大事だ。過疎でもなく過密でもなく、車に過度な依存をしない適切な規模の街というのが、実はある。

ヨーロッパやドイツなどで進められている街づくりに、「ショートウェイシティ」という考え方がある。これは、移動距離の短い街で、人がいろいろな所に移動することを妨げず、様々な生活の用途での移動距離が多くの人にとって短くなるように、上手に街づくりをしていくことだ。

これによって得られる効果は多面的だ。交通費が減り、家計の実質所得が増加する。不動産価値が維持、場合によっては、不動産価値・地価が向上する。生活利便性が向上する。車で移動せず、公共交通の利用や徒歩により健康寿命が延伸し、交通事後も減少する。域内商業も活性化する。環境負荷が低下し、公共交通も採算性が向上する。インフラ費用の伸びも抑制できる。景観も形成でき、魅力のある新たな観光需要が喚起できる。

日本でこれを進めているのは、富山市のコンパクトシティ政策だ。つまり公共交通を軸にした街にすることによって、マイカーの量が10%程度減り、公共交通に転換する人を増やした例がある。

一つの政策で複数の課題を同時に解決していく政策が、これからの主流になっていく。そうしないと資源が足りない。健康政策でもあり、環境政策でもあり、インフラ政策でもあるということが大事になってくる。

人口減少に適応していくことと、環境的に見て持続可能な地域づくりは、非常に共通点が多い。国も含めて、環境未来都市やSDGs未来都市の新たな取り組みが、国内外の地域で始まっている。これからの地域戦略には、SDGsの視点が不可欠だ。

ドイツのアウグスブルクと、姉妹都市を結んでいる日本の尼崎市の住宅地を比べると、尼崎の住宅地は戸建住宅と道路が非効率に密集している。どう見ても緑が多く、ゆとりがあるのはアウグスブルクだが、人口密度は、多分アウグスブルクのほうが多いぐらいだ。尼崎市は、道路がもともと細かく、住宅地が増えるたびに増えていった。小さな家がたくさんあって、空き家が増えている。

道路の維持費用など行政コストがどんどん増えていき、住民にとって、いいことがない街だ。しかし、これは、過去、人口が急激に増えたから仕方がないだが、人口が減るということを悲しく残念にとらえるのではなくて、一つのチャンスだととらえて、長期的な新しいまちづくりのきっかけにすることが大事だ。

地域での話し合いが大切

その際、最初に地域で話し合っていただきたいことが、地域のインフラだ。ガス、電力会社等のエネルギー事業者、交通事業者、水道など公営事業、地域の経済界、金融機関、消費者、住民、自治体、そして地域の大学等の研究者、議員も含めて、みんなで話し合うしかない。地域によって解決の仕方が違うから、その地域に合わせて、地域で解決策を考えるしかない。

そのときにヒントになるのが、ドイツのシュタットベルケという都市のインフラ工事だ。100年~200年と、人口が増えたり減ったりする中、あるいは戦乱の中で、ドイツでは都市のインフラをずっと維持してきた。現在は、エネルギー会社や水道会社が収益を上げていて、その収益で交通会社の赤字を補填している。ドイツでも公共交通は、基本的に赤字だが、100年前は逆だった。交通でもうかって、その収益をインフラの整備に当てたのだ。つまり、時代を超えて利益を平準化して、インフラを維持している。インフラの会社が衰退することは、地域の衰退につながる。生活や経済を支えているから、地域で生きていける人がいなくなる。

例えば、地域に電力会社がきちんとあれば電力会社、都市ガス、近郊鉄道、バス、工務店、廃棄物、水道など、様々なインフラの企業、公営事業体が、若手職員を集めて合宿をさせて、そこに議員が入って、研究会等で頭の体操をやらせてみてもいいのではないか。まずはアライアンスを組む、協力しあう素地をつくる。

実際に、こういう事例は始まっている。小田原では、地域の都市ガス会社とプロパンガス会社が連携して、そこに地域の商工会議所が出資してつくった新電力の会社「ほうとくエネルギー」がある。その会社が出資と電力の供給をして、市が協定を結んでいる。市長、地域の企業の社長等のみなさんが何度もドイツに行って、シュタットベルケを勉強して、「とにかく小田原だけは生き残るのだ」という気持ちで進めている。

「移動スーパーとくし丸」は2人で立ち上げたが、そのうちの1人は徳島市の市議会議員で、村上稔さんという。議員を12年間つとめたが、2011年に県会議員選挙に出て落選。失意のどん底にいた彼を、友達が「移動スーパーをやろうよ」と言って、全国で黒字のスーパーを探し回った。しかし、移動スーパーで、黒字はゼロだった。まず、お客が見つからない。効率のいい見つけ方がない。社会福祉協議会に聞いてもわからない。どうしようと思い悩み、出た結論が、イノベーションだった。

住宅地図を持って、一軒一軒訪ねて、「移動スーパーが来たら、買いますか?」と聞いて回った。まさに市議会議員の手法だ。市議会議員をやっていたから、できた。今まで、どこにも黒字の移動スーパーがなかったのは、そこまでやらなかったからだ。

それで今、徳島では人口の99%をカバーして、買い物難民は、ほぼない状態だ。移動スーパーは、全部黒字だ。このことは、村上稔さんの『買い物難民対策で田舎を残す』に書かれている。このように皆さんのノウハウの中に、地域の課題を解決する手法がたくさんあり、何もしないことが、最大のリスクだ。まずは地域で、苦い現実を踏まえて話し合っていただきたい。それが地域のいろいろな企業にとっても、組合にとっても、住民にとっても、みんなにメリットになるということだ。

ぜひ、地域から皆さんが起点になって、持続可能な地域、人口減少に負けない地域をつくっていただきたい。御清聴、どうもありがとうございました。

(この講演要旨は、事務局の責任で作成しました)

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