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第1回学習講演会講演要旨
「新型コロナ感染症と地方自治」
元読売新聞編集委員 青山彰久

2020年11月17日(土)

私は昨年まで読売新聞の編集委員を務め、記者歴40年で退職しました。現在はフリーのジャーナリストとして活動しています。1990年代の半ばから地方自治、分権改革、地域政策の専門記者として20年活動し、それをライフワークとしています。しかし、ここ5年くらい「分権改革とはいったい何だったのか」というくらいに改革の動きは失速しています。政治状況もありますが、市民の側から地方自治を強化してほしいという取り組みが弱まっているのか、自治体はただの窓口だけという話でとどまっているのか失速しています。私はもう一度分権改革の時代がくると思っています。60年代70年第の地方自治にたいする期待が90年代の改革に繋がったということを考えれば、もう一度地域の中で「自分たちのなかで自治体が必要なんだ」という声がおこってくるものと思います。

コロナ禍は目の前の危機なので、見方によればこういう時こそ地方自治体が役に立たなければなりませんし、地方議員の活躍の場であるとむしろチャンスとしてとらえることです。住民のいのちとくらしを守ることが地方自治の最大のミッションですから力を発揮するいい機会です。

本日の講演は4つの論点を考えました。一つ目は新型コロナはいったい何を破壊しているのか。二つ目は新しく起きていることは実はすでに起きていたことが劇的に表れただけではないのか。三つ目はその中での自治体の役割は何なのか。四つ目は地域と自治は都市構造とか地域構造の洗い直しまで繋がるのではないかということです。千葉は東京のベッドタウン的な位置づけと後背地の農業、漁業地帯に分かれており、双方が交流するという大事な地域であるのではないかと考えます。

新型コロナは何を破壊しているのか

最初の「新型コロナは何を破壊しているのか」ですが、一言でいえば「生活の破壊」で、大きく言えば「失業」と「格差の拡大」です。コロナ失職はまだ始まったばかりでこれから本格化していくのではないかと思います。政府の統計ではすでに7万人を超えたのが最新の数字です。とくに、女性、非正規雇用、それに外国人労働者が狙い撃ちされ、現在の第3波の流行を考えるとますます深刻となっています。

「格差の拡大」ですが、2020年10月からはじまった「GOTOトラベル」の利用者が2500万人を超えたということです。旅館業や観光業が潤っているとのことですが、一方でこれだけ失業者が増えている中で、2500万人が旅行に行けるということが「格差の拡大」を象徴していると思います。

財政資金を使うことが必要かつ大事な局面にきていると思います。しかし、みんなが目の前の損得だけで、「これは使わなきゃ損だね」みたいなことに追い込まれているように感じます。それを本当はどこに使うべきかというバランスが崩れてきているのではないかと思います。

それから、母子健康手帳を受け取るひとが激減しているということです。東日本大震災のときは、「絆」ということで「命の大切さ」が叫ばれ震災婚とか「命の大事さ」に行き着いたような気がしますが、それに比べてコロナ禍で妊娠数が減少し、命を抑制していくような状況が生まれています。

この5月6月以降から「自殺」が増えており、女性の自殺者が4割も増えているとの数字があります。女性には非正規雇用が多いとか、家庭内のストレスが増えたとか原因はいろいろあると思いますが、とても不気味な状況です。これは何が起きているのかということですが、経済的な負担、精神的な負担、ストレスの蓄積、それから長引く閉塞状況が原因ではないでしょうか。

現役世代はリモートワークでなんとか業務を回していますが、高齢者は家から全く出ず籠っているひとが大多数です。大学生はオンライン授業で誰とも会わなくなっています。これはコロナ禍が「分断と孤立」を引き起こし、無意識のうちに誰にも頼れない、自分の身は自分で守るしかないという不安をうみだしています。

メディアでは毎日、感染者が何人、重傷者、死者が何人とのニュースばかりですが、アンテナを高くしてみると、デマ・中傷・差別これがおきていることが気になります。なぜこのようなことがおきるのか、第一の理由は「治療法がない、ワクチンがない」ということでみんなに不安と恐怖をもたらしています。これが防衛本能を呼び起こし、ストレスと重なり無軌道な怒りに爆発します。

「同調圧力」とは、仲間から排除されないように、集団の中で発生する心理的・社会的圧力です。それが一つの権威とかさなると、首相が、知事が、市長が言ったと権威をかざして呼びかけると「こんなご時世だから」と自発的に従うようになります。戦時体制の国民の心理状況です。むしろ政府の場合はこういう「同調圧力」を使って自粛を要請し、国民の間に「自粛警察」なる存在がうまれたのです。

ここから言える結論はコロナに罹ったからといって、絶対非難してはいけないということです。それが、「都市空間の破壊」ということに繋がります。都市とは資本、情報、人間が集積して、それにより様々な利益を生んでいきます。それにより、都市は繁栄していくのです。一方で公害問題のように集積の不利益も現れてきます。このコロナは不利益の象徴です。

そこで最後の拠点になるのが、地域だと思います。「暮らしの場としての地域。その地域を共同体として強くする自治体の力が必要とされていると思います。「地域の力」とは何だろうか、東大の神野直彦先生は「共同の危機を共同で解決する能力」とこのように定義しています。この要素は「共生の力」「参加の力」「帰属する力」としてこれが伴って地域の力になってその危機をみんなで共同して克服していこうということです。そこから、自治体の行政が、あるいは議会の活動が出てくると思います。

すでに起きていることが象徴的に現れただけ

次に「すでに起きていることが劇的に現れただけ」です。行き過ぎた新自由主義的なグローバル化の問題が出てしまいました。これまでに医療や社会保障のシステムを"効率的"を理由にどんどん切り捨ててきました。効率的で正しいとされてきた新自由主義的経済政策では、人間の生命は守れないし、いざとなれば経済をストップさせるしか対応できないことが明らかになりました。

保健所の逼迫が問題になっていますが、分権改革の時に保健所機能を市町村と県に権限を分離しました。分権改革は地方自治を充実させるという論理とは反対に、規制緩和・行政改革の手段として使われました。1995年には保健所は845か所あったのですが、2020年には469か所に減ってしまいました。常勤職員も34,000人いたのが6,000人も減っています。広域的・専門的な感染症対策を担う保健所機能が実は縮小しました。2009年に新型インフルエンザが流行したときに、厚生労働省の有識者会議では「保健所、地方衛生研究所の機能強化」が提言されましたが、政権は無視してきました。

それから、非正規雇用の問題です。安倍政権は「雇用は改善して、ほとんど完全雇用の状況にあった」と喧伝してきました。完全失業率も2%まで落ちていたのですが、よくみると非正規雇用が2200万人になっていて、働き手の65%が非正規になってしまいました。コロナ禍になって真っ先に雇止めにされたのはこの非正規雇用者でした。2020年7月には1年前と比べて116万人減少しました。コロナ禍で批正雇用者が狙い撃ちされたということです。日本の企業では「競争力を高めるために人件費を安く抑える」というのが当たり前になっていますが、働き甲斐のある人間らしい仕事場を奪っていくうちに日本経済は立ちいかなくなってしまうのではないかと危惧します。コロナ禍はゆがんだ構造を劇的にあらわしたのではないでしょうか。

その中で地方自治体の役割は何か

地方自治体は「地域で暮らす人々の生活を守る」ということが本質的なミッシヨンです。コロナ禍での中央政府と地方自治体の役割を考えると、中央政府は「水際において検疫で止める」「ワクチンを配る」ということがありますが、実際の仕事はすべて自治体の仕事です。しかも、札幌、北海道と東京は違います。千葉と東京も少しは違います。愛知と大阪も違います。みんなそれぞれ状況は違うわけですから、その状況に合わせて感染対策をつくっていくのはまさに自治体の仕事です。中央政府は医療体制の充実のために人と財源の準備をするということでことさら、地方政府の対策に必要以上に口を出す必要はありません。

そこで、連合千葉議員団会議の皆様へのお願いは、自治体は何でも国に決めてもらうのではなく、リアルな現場から、独自の政策を生み出す必要があります。必要に応じて多くの自治体と連携して国を動かすしかありません。そのために、地域で活躍するNPOの人たちとか、皆様の支持者・講演者のネットワークを使い、とにかくアンテナを高くして、地域の危機の実態を把握していくことです。千葉県的にいうと成田空港周辺の非正規雇用の問題とか首都圏1都3県の中で最も農業と漁業が活発で歴史的に集積している千葉ですから一時的でも非正規雇用の人たちの働く場の確保できないかと思います。自治体当局が国の言うことに沿って対応しているだけだとしたら、「千葉はこうすべき」と働きかけていただくことが大切だと思います。

もう一つの柱は差別の問題です。地方自治法は日本国憲法と同じ日に施行され、戦後憲法の重要な統治構造の一つです。民主主義社会を根幹で支える重要な役割があります。コロナ禍で様々なことに規制をしています。原理的に考えると「外出の抑制」は移動の自由を制限しています。「イベント開催の制限」は集会の自由を制限しています。「学校や大学の閉鎖」というのは学問の自由に直結しています。図書館の閉鎖、音楽、演劇の閉鎖は表現の自由と関係します。これはこれ以上感染を広げてはいけない、そのために一時的に行政に預けていると考えて「このようなご時世だから」とは言わずにしてください。 行政による規制も要請も合理性がありますが、知事や市長の権限が絶対的ではありません。こういう機会こそ議会が積極的に関与していく必要があり、新しい政策をつくり条例化していく行政の権限をコントロールしていくという役割があります。議員には高いアンテナがあります。行政職員にはできない情報をキャッチできます。これが議員の皆様への期待です。

地域と自治は都市構造とか地域構造の洗い直しまで繋がる

「アフターコロナの地域と自治」ですが、「テレワーク」の実施率が首都圏の1都3県は48%を超えています。また、これからもテレワークを希望するかとのアンケートに4分の1が希望しています。その理由としてコロナが怖いこともありますが、通勤時間の長さに気が付いたということがあります。コロナ以降通勤時間が減少したかの問いに30%以上の人たちが減少し、「生活重視に変化した」と64%の人が答えています。千葉県から1時間以上通勤に時間をかけていた人の生の声だと思います。戦後の都市計画の原理は職住分離です。住宅はどんどん郊外に広がり、その結果通勤時間がべらぼうに長くなりました。コロナ禍とテレワークが拡大することによって、この都市構造が実は非人間的都市空間をつくっていたということが浮き彫りになりました。これは簡単には直せませんが、目指すべきは自転車か歩いて行けるところに仕事場がある、職住接近を目指していくそういう都市構造にして、人間的なものにしていくという大きな方向があると思います。

新型コロナウイルスは開発の行き過ぎによって生まれた新しい感染症で自然からの逆襲とも見ることができます。これは結局、生命と環境に行き着きます。新しい感染症というのはもともと野生動物の体内に生き続けていました。人間が開発し過ぎたことにより、野生動物との接触が増え、コウモリのような中間動物を介して人間に感染したという指摘があります。まさにグローバル化に原因があります。そして、市民を直撃するのは、都市への過剰な集中で、テレワークができる人とできない人で格差が広がってきます。やはり、生命と環境を守る、都市への過剰な集中から農村との分かち合いを考えるべきです。農山村からただ食べ物をもらうだけでなく、農山村に行って一緒に地域を維持する仕組みを勉強し、都市の作り方を参考にしていくようなことがあってもいいのではないか。千葉県は臨海開発やインバウンド効果、ディズニーランド等にみられるように、時代の波にうまく乗ってきました。もうそういうことではなく、都市と農村のあり方をどうするか。ベッドタウン化した都市地域をどのように人間らしい地域に戻すか。コロナ禍を転機にこのようなことを考えていき、千葉の特性を持った政策提言をすべきだと考えます。

最後に一言、「グリーンインフラ」という言葉があります。東京の話ですが、皇居のお堀の水は濁って、汚いです。これを変えようと、江戸時代につくられ、水道が完備されたため今は途中で止まっている多摩川上水を皇居のお堀につなげようという実験が始まっています。自然を制圧するのではなく、自然の力を使って都市を作っていくそのような発想にしていくべきだと思います。

(この講演要旨は、事務局の責任で作成しました)

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